• hypnoeriko

【本】『夜と霧』

更新日:10月13日

以前に読んだ本の紹介です。


わたしがこの本を知ったのは最近ですが、

原著の初版が1947年、

日本語初版が1956年、

その後著者によって改訂版が1977年に出版されています。


そしてこの小説は、セラピーの講座アシスタントをしていた時に先生のお話の中で紹介された本でした。










ユダヤ人である神経科医の著者が、第二次世界大戦中に収容されていた収容所での生活と、

折々の心理状態について、体験した事実と、専門医の視点からの検証、そして著者の感性や感覚で書かれています。


実際の収容所生活がどれほど壮絶で悲惨だったのか、どのようにして人間の尊厳が奪われ、

感情が消失していくのか、精神科学的見地や心理学的な知識を折り混ぜて、淡々とした表現の中にも熱を持ちながら描かれているように感じました。


ユダヤ人がナチによって捕えられ、収容所に送られ大量虐殺された事実は地球規模のまぎれもない悲惨な歴史です。


この本では収容所での生活を書いていますが、国と国の関係性や政治的な見解等は一切説いておらず -それはもしかしたら、内容で収容所生活の描写があまりにも生々しく強烈過ぎてわたしの記憶に入ってこないだけなのかもしれませんが - 少なくとも印象に政治的な意見、思想的な表現は一切残っていません。


それよりも、人間という いち存在として、自尊心の芯の部分、魂から綴られた言葉はどれをとっても心に響くものでした。

求心的な視点。

それはわたしに、周囲の情報や環境に失望したり先の情勢に怯えるのではなく、人間の内側、内面性に軸足を置き、医師として一人の人間として全体を眺めている著者の立ち位置を想像させてもくれました。


読み始めの段階では、収容所の様子や検査、部屋の中、労働の様子、周囲の人間描写等が

記録のように詳細に描かれていて、それがあまりにも悲惨なので読んでいて憐憫の気持ちや感覚が強くなるんですが、

次第に、著者の内面に入っていく描写や彼独自の表現、感じていることの言い回し等に意識が留まります。

外側とは対照的な冷静さ、

ユーモアやウィットがあり、

そこは彼の聖域のような場所でした。

加えて、妻を想う彼の時間と記憶はロマンティックで、その感情や感覚こそが彼自身に、生きろ!と鼓舞してくれていたんじゃないかとさえ思います。


これまでの知識や経験、感性は内面にある精神性を支え、

その精神性こそ、

誰にも奪えない、

誰にも冒されないものだという、

シンプルだけど深い答えを示してもらえた作品です。


興味のある方は、ぜひ読んでみてください。


『夜と霧』

ヴィクトール・E・フランクル

池田香代子 訳

みすず書房


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